会長からのメッセージ (2012.1.5)



日本油化学会創立61周年を迎えて


阿 部 正 彦

日本油化学会会長・東京理科大学教授







  昨年の3月11日に起こった東日本大震災から10ヶ月近くが経過しているのも係わらず,東北・北関東4県には未だに大きな傷跡が残されたままになっております。決して忘れてはならないのは多くの方が犠牲になったことであり,被災された方々の心労は計り知れないものがあると思いますが,一日も早い回復を祈念しております。

  今年の日本油化学会は,還暦を迎えて新たな軌跡を刻もうとしており,われわれ役員一同もいつもの年よりも張り切っているところです。たとえば,創立60周年記念行事の一環として,3年前から油脂・脂質・界面活性剤データブック(日本油化学会編,丸善発行)の編集委員会を発足させ,今年中には発行する段取りになっております。内容的には油脂から界面活性剤まで,すなわち油化学便覧と界面活性剤ハンドブックを合わせたような本油化学会が網羅する内容すべてに関するハンドブックであり,皆様の座右の銘となるものと確信しております。また,神戸学院大学 戸谷永生先生(60周年記念誌編集委員長)が中心となり,40周年や50周年の記念誌を上回る60周年記念誌の発行に向けて資料作成に奔走されております。また,今年の秋には東日本大震災の影響で延期になってしまいました国際会議と第50回年会(実行委員長・河合武司先生)を,WCOS 2012として長崎県佐世保市で開催することになっています。と同時に,第51回年会(実行委員長・柴田 攻先生)を開催する予定であり,一般人を対象とする特別企画としてノーベル賞受賞者の講演会(講演は日本語)が予定されております。もちろん,一般人のみならず国際会議に参加される若い研究者達にも積極的に拝聴していただきたいと思っております。

  学会としての新しい試みとして,日本油化学会が中心となるアジア油化学会(Asian Society for Oleo Science;ASOS)を発足させ,定期的にアジア油化学会議(Asian Conference for Oleo Science;ACOS)を開催することを計画し,準備を進めております。対象となる国は,韓国,台湾,タイ,マレーシア,インドなどであり,JOCSと同様の学会の設立とASOSへの参加を呼びかけているところです。このASOSの発会式は上記のWCOS 2012開催期間中に行い,2014年秋に北海道大学で第1回ACOS(組織委員長 宮下和夫先生)を開催することが企画されています。このACOSは日本油化学会のリーダーシップのもとに,定期的に日本で開催することを想定しています。

  日本油化学会では毎年のように会員増強策をとっていますが,他の学協会と同様に減少傾向は回避しようがありません。そこでASOSの発足と同時に,日本油化学会の新しい会員枠としてアジア諸国の研究者および学生を対象とした外国人枠を設けることを企画しています。年会費は当分の間少額とします(学生は無料)が,本学会からの連絡や情報は登録された電子メールのアドレスに送るシステムを構築するつもりです。学会主催行事への参加は歓迎しますが, Journal of Oleo Science元編集委員長宮澤三雄先生の長年の念願であったJOSのインパクトファクターが,昨年1.094という値が得られましたので,さらなるポイントアップを計るために海外からの積極的な投稿を勧誘していきたいと思っています。

  今後の日本油化学会のあり方としては,これまでと同様にAmerican Oil Chemists’Society; AOCSとの良好な協力関係を維持しながら,アジア諸国の中でリーダー的地位を確立していくことが,本日本油化学会の存続の意義と創立100周年にむけての発展に結びつくものと信じています。

  会員皆様方のご理解とご協力を切に願うものであります。






会長からのメッセージ (2011.5)



豊かな低炭素社会の実現に向けて


阿 部 正 彦

日本油化学会会長・東京理科大学教授







  3月11日(金)に発生しました東日本大震災では多くの尊い命が奪われ, かつ甚大な被害を生じましたことに, 改めて心より哀悼の意を表しますとともに, 一日でも早い復興がなされることを祈念いたします。

  このたび平成23-24年度の公益社団法人日本油化学会会長を拝命し, その重責に身が引き締まる思いでおります。慣例によりまして, 会長就任にあたり一言ご挨拶申し上げます。

  本会の歴史を辿りますと, 戦後間もない昭和26年(1951年)11月, 日本油脂化学協会の名称のもと, 「油脂に関する学術および産業の進歩発展を図り, 文化の向上に資すること」を目的として発足しました。2011年の11月21日には還暦を迎えることになっている伝統のある学会です。会員数が最も多かった時期には3,000名を越える学会でしたが, 他の学協会と同様に年々減少傾向にあり, 2011年2月現在では個人会員1,424名, 法人会員146社となっているのが現状です。ご存じの通り, 本会は産官学が一体となりわが国における”オレオサイエンス”の総ての領域を網羅して発展してきた学際的な貴重な団体です。約10年前にミレニアム委員会を発足させ, 会員数のV字回復を図るべくさまざまな企画が提案され, 歴代の会長の方々が鋭意努力されてまいりました。とくに, 伊藤俊洋前々会長や島ア弘幸前会長は, 一貫して国際化, 社会への啓発活動, JOCS未来マスタープランの3本柱を中心に陣頭指揮を執られてこられました。私も新しい企画を織り交ぜながらこの路線を踏襲していきたいと思っております。

  まず, 国際化についてですが, 本会の会誌は2001年から英文の論文誌(Journal of Oleo Science)と和文誌(オレオサイエンス)に分けて発行され, 順調な発展を遂げております。英語論文を掲載するJournal of Oleo Scienceは世界のインターネット検索システム(PubMed, Google Scholar, J-Stage, ほか)に掲載されており, 瞬時に世界中を駆け巡っています。インターネットでアクセスできることになったお蔭で, 外国人の投稿や閲覧も飛躍的に増加し, 国際誌として認識され始めたものと判断しています。また, 前のEditor-in-Chiefの宮澤三雄先生(近畿大)のご努力により, 国際学術誌の評価基準として有名なトムソンロイター社によるインパクトファクターも今年の夏頃には1 + αの点数がつくものと期待しているところです。

  一方, 学会活動としましては, 東日本大震災や福島原発災害で延期いたしましたWorld Congress on Oleo Science & 29th ISF (International Society for Fat Research) Congressを, 2012年10月に長崎県で開催する予定です。この国際会議では, 例年行われている第50回年会(実行委員長: 河合武司教授・東京理科大学)を始め, アメリカ油化学会とのジョイントシンポジウム, 韓国油化学会とのジョイントミーティングやISF同時開催など, 多岐にわたる研究領域が一堂に会する一大イベントになる予定です。基調講演も, 本会を代表して今栄東洋子先生(総合化学技術会議議員, 日本学術会議会員, 国立台湾科技大学教授), 法人会員の代表として藤重貞慶氏(ライオン且ミ長), 関係大学を代表して藤嶋 昭先生(東京理科大学長), 若手研究者の代表として出口 茂氏(海洋研究開発機構チームリーダー), アメリカ油化学会からChing T. Hou氏(USA農務省主席研究員)と山本 尚先生(シカゴ大学)にお願いしてあります。また, 大会初日のレジストレーションと並行して, 学会賞と進歩賞の受賞講演(国際会議に合わせて英語による講演)を開催する予定です。さらに, 本会中ではInterdisciplinary Lecture Sessionを設け, 界面活性剤とポリマーとの相互作用, 界面活性剤と生体関連物質との相互作用, 高分子マイクロゲル, 化粧品と医薬品応用のための弾性ベシクル, バイオ燃料, ナノカーボンの親水性と疎水性の二重性など, 学際的な講演を企画しています。この企画は, 本会にとって初めての試みです。また創立60周年の記念行事としては, 2012年に記念出版(油化学ハンドブックや記念冊子)や同時に開催する第51回年会(実行委員長: 柴田 攻教授・長崎国際大学)では,二人のノーベル賞受賞者の記念公園も企画しており, 公益性を意識した企画も検討されています。

  社会への啓発活動としては, まず社団法人から公益社団法人に移行したことが最大の課題になっています。幸いなことに内閣府・公益認定委員会から公益社団法人への移行が認定され, 予定通り平成23年(2011年)3月1日に登記されきました。このことに関係されてこられた諸先輩の方々のご尽力に深く感謝いたします。

  60周年記念年会では, 本学会員にこだわらず公益性を意識した企画や一般人を対象とした無料講演会もさらに積極的に行いたいと思っています。また, 島ア弘幸前会長が自ら提案された「新時代への展望」は新たなステップを踏み出し, 独自の社会への啓発活動を提案されています。とくに, 理科離れをしている小学生や中学生を啓蒙するための本会独自の取組を提案・実行しようとスタートしました。

  しかし一方では, 本会の行事に公益性を求め過ぎますと, 本学会の会員であるメリットがなくなり会員減少を引き起こしかねません。さらに, 会員でなければ入手できなかった技術や情報も, 今ではインターネットを通して誰もがいつでもどこでも入手できるようになりました。このような状況のもと, 会員減を緩やかにすることはできるかも知れないが, 右上がりの回復は至難の業と思います。しかし, 本会が70周年, 80周年, 90周年, 100周年が順調に迎えられるように, 今まで以上に理事が一丸となってより活発な活動をしていくつもりです。