日本油化学会

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平成29年度 第64回界面科学部会秋季セミナー報告

第64回界面科学部会秋季セミナーを開催しました

界面科学部会副部会長 荒牧賢治(横浜国立大学大学院環境情報研究院)

 

 界面科学部会が主催する秋季セミナーを2017年11月6日(月)〜11月7日(火)にIPC生産性国際交流センター(神奈川県葉山町湘南国際村)において開催しました。歴史ある本セミナーも今回で64回目となりました。会場は高台から相模湾と富士山を望める非常に景色の良い場所にあり,素晴らしい景色が見られました。参加者は企業の若手研究員、学生を中心に45名となり、懇親会での交流も盛んに行いました。セミナー全体の主題を「化粧料・洗浄料の先端技術とその応用」とし、以下に紹介した講演を初日に3題、2日目に5題行いました。以下に各講演の概要を書きます.

 初日は14時から17時過ぎまで以下の講演とディスカッションを行いました。加賀谷真理子先生(花王株式会社)には「弱酸塩型界面活性剤による皮膚マイルド洗浄システム」の演題でお話しいただきました。洗浄力と肌へのマイルド性はともに皮脂汚れに対する界面活性剤の疎水性相互作用によって決まるため,トレードオフの関係にあり,これらの高いレベルでの両立は困難と考えられてきました。しかし,皮脂汚れ中の脂肪酸と特に相互作用するアルキルエーテルカルボン酸塩を用いた洗浄剤により広濃度範囲でラメラ液晶の形成を誘起させ,それを用いた液晶乳化と同様のメカニズムにより、肌に優しいうえ、皮脂汚れに対しても高い洗浄力を示す洗浄剤の開発を可能にしたという研究について紹介いただきました。山下裕司先生(千葉科学大学)には「HLB値に代わる界面活性剤の新規指標の構築」の演題でお話しいただきました。様々な計算式から求められる親水性-疎水性バランス(HLB)値は界面活性剤の性質を表す重要な指標であるが,界面活性剤のHLB値と物性値に相関が得られない場合があります。順相と逆相の薄層クロマトグラフィーに各種の非イオン界面活性剤を滴下し,その移動度とスポット面積から求めたHLB値に変わる新しい指標(ISP)について、曇点やcmcとの相関性についてHLB値よりかなり正確に相関を表すことができることについて説明いただきました。小幡誉子先生(星薬科大学には「細胞間脂質モデルの構造解析」の演題でお話しいただきました。角層中の細胞間脂質が形成する規則正しい構造(ラメラ構造)がバリア機能の物理的本質と考え,実際の角層および細胞間脂質の代表的な脂質を組み合わせたモデル脂質系に対し,熱分析,赤外吸収,放射光X線回折実験を行い,副格子構造と二分子膜の結晶性の変化がバリア機能に関係することを示した研究について紹介いただきました。

 2日目は朝食後、9時から3時頃まで以下の講演を行いました。 櫻井翔先生(電気通信大学大学院)には「情動を動かすバーチャルリアリティ技術の展開」の演題でお話しいただきました。情動(感情のうち、急速にひき起こされ、その過程が一時的で急激なもの)が人の判断能力,作業効率,コミュニケーション能力に影響することを独自に開発した装置を用いて行った実験結果をもとに示していただきました。塚原保徳先生(マイクロ波化学株式会社)には「マイクロ波を利用した油脂誘導体製造技術とスケールアップ」の演題でお話しいただきました。マイクロ波を用いた省エネルギー・高効率・コンパクトなプロセスにより脂肪酸誘導体などを生産できることを紹介していただきました。マイクロ波プロセスの科学的解説だけでなく,大学発ベンチャーとしていかにして同技術をビジネスとして成り立たせて来たかについて興味深いお話しをしていただきました。小松陽子先生(東洋紡株式会社)には「スキンケア化粧品のぬり心地の計測方法」の演題でお話しいただきました。化粧品のぬり心地として用いられる「もっちり感」と「べたつき感」という官能評価の結果が定量評価可能な物性値である剥離力と化粧品残存率に相関があることを見出した研究について解説いただきました。堀江亘先生(ポーラ化成工業株式会社)には「ラメラ相を応用したパウダー化粧品の開発」の演題でお話しいただきました。パウダーファンデーションに従来求められてきた仕上がりや化粧持ちなどのメーク機能に加えて、スキンケア効果を付与した研究について解説いただきました。粉体粒子をレシチンラメラ層で覆うことにより粉体による皮脂の吸収を抑え,乾燥しないファンデーションを提供するとともにラメラ間に保湿剤を可溶化させることで角層水分量を積極的に保持する機能を加えた製剤技術を紹介いただきました。相川達男先生(東京理科大学)には「電荷配置が”逆”の極性頭部をもつジアシルグリセリド型脂質の脂質膜特性」の演題でお話しいただきました。ホスファチジルコリンの極性頭部は双性イオン性であり、脂質分子の末端がカチオン性のコリン基、その隣にアニオン性のリン酸エステルが位置している。極性基の電荷配置がホスファチジルコリンとは逆の双性イオン性脂質(ICZL)が形成するラメラ膜の相転移温度の変化を表面圧測定から評価した分子間相互作用から考察し,リポソームの安定性向上や薬理作用に有用であることを示した研究について紹介いただきました。

 今回のセミナーも無事に終了することができました。ご講演・ご参加頂いた方々、セミナーの準備と進行を行っていた界面科学部会の幹事の方々にお礼申し上げます。

 


講義の様子